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—– 活用早見表 (埋め込みPDF)
—– 活用練習帳 (埋め込みPDF)
+ ラテン語動詞の完了幹形成法
—– I. s-完了幹
+ ラテン詩の規則
+ フランス語動詞の活用の覚え方
—– 1. Groupe A
—– 2. Groupe B
ガーイウス、ガーユス、ガイウス、ガイユス。このようにカナ表記に揺れが多いものの代表とでも言える Gāius (C.) であるが、どのようにカナ表記すべきか。この問題には、ラテン語に触れていると誰しも一度はぶつかるのではないだろうか。『カティリーナ弾劾演説』読書会にて鋭いご指摘を受け、このことについて曖昧だったのが明るみに出た。ご指摘頂いたのは, ēius, hūius, cūius, māior といったものは「エイユス、フイユス、クイユス、マイヨル」と読むのだから, Gāius も「ガイユス」になるのかどうかということであった。私はそれまで「ガーイウス」とカナ表記されているものを沢山目にしていたこともあり、それに iu だから「ユ」になるだろうと考え、それに少し変更を加えて「ガーユス」の表記を使用していたのであるが、調べるほどにどんどん自信が無くなってきた。なので、ここで一度しっかり確認しておこうと思う。
音節を確かめるには、詩文におけるの音節の扱いを見るのが正攻法である。ロイマン (Leumann, §138.3.) はルーキーリウス、ペトローニウス、マルティアーリスが Gāius を3音節 (–UU) として扱っていると報告し, L-Sでは同様の例としてカトゥッルスとマルティアーリスが挙げられている。これらは「ガーイウス」の表記を推挙するものであるといえる。
続いて Gāius の語源を確認してみたい。ロイマン (Leumann, §112c) は Gāius に次のような変遷を想定する:
ところで代名詞 is, hic, quis の属格形は伝統的に ēius, hūius, cūius と表記されるが、これらは -i- が母音に挟まれているため渡り音として働き、それぞれ ei-jus, hui-jus, cui-jus 「エイユス、フイユス、クイユス」というように発音されるものである。それゆえ eius, huius, cuius と表記が改められて良いと思うが、この慣習的表記はおそらく韻律分析の際に「長・短 (–U)」を ei-jus ではなく ē-ius と誤って読んだことに起因するのではないかと思っている。
このように、eius と Gāius とはその語源からして全く異なるため比較の対象にはならないと言える。つまり、Gāius の長音 ā は ēius のように慣習的なものではなく、本来的なものであると言える。
ところが、en.Wikipedia に面白いことが書かれていた。それによると、Gāius はこのように元々は3音節であったが、共和政期には2音節で「ガユス」と読まれていたというのである。その主張の根拠が示されていないので扱いに困るが、無きにしもあらずといった感じを受ける。
“This pronunciation persisted, alongside the later two-syllable form in which "a" and "i" are pronounced together as [ˈɡajʊs], throughout the period of the Roman Republic.”
オイディプースの父ラーイオス Λάϊος (Lāïos) はラテン語では Lāius (ラーイウス) と書かれるが、Bantam 羅英辞典で Gā-ïus と表記されるのは、これに則ったものであろう。すると、このラーイオスも「ラユス」と読まれた可能性が出てくる。
このような次第であるためはっきりとした結論を出すことができないが、理論的に「ガーイウス」と表記するのが無難であるといえる。「ガイウス」というのは「ガーイウス」の長音を省略する場合に用いられ、「ガーユス」は「ガユス」と共に口語的な雰囲気を伝えるものであると言えるだろうか。そして最後に「ガイユス」であるが、これは eius を規範とした読み方であり、これは避けた方がよさそうである。
手元にある訳書を適当に紐解いて確認してみると「ガーイウス」の表記が最多である。これを踏襲するのがベターであるとも言える。しかし、問題は古典期にどう読まれていたかである。これは今回調べがつかなかったので、また機会があれば調べて見たい。
〈参考文献〉
Chase, G.D., (1897), The Origin of Roman Praenomina,
Leumann, M., (1977), "Lateinische Laut- und Formenlehre", Band 1 aus Lateinische Grammatik von Leumann - Hofmann - Szantyr . München: Beck.
Traupman, J.C., (2007), The Bantam New College Latin and English Dictionary, rev. ed., New York.
音節を確かめるには、詩文におけるの音節の扱いを見るのが正攻法である。ロイマン (Leumann, §138.3.) はルーキーリウス、ペトローニウス、マルティアーリスが Gāius を3音節 (–UU) として扱っていると報告し, L-Sでは同様の例としてカトゥッルスとマルティアーリスが挙げられている。これらは「ガーイウス」の表記を推挙するものであるといえる。
続いて Gāius の語源を確認してみたい。ロイマン (Leumann, §112c) は Gāius に次のような変遷を想定する:
*Gāvios > *Gāĭvos (vi → iv) > *Gāĭvus (o → u) > Gāĭus (vu → u)
*Gāvios というのはオスク語で用いられていた名前のようである。*gāvios と聞くと動詞 gaudēre 「喜ぶ」が思い浮かぶが、やはり語源を共通にする可能性が高そうである (Chase, pp. 157-158)。意味はともかく、このような音変化はラテン語ではごく自然なものであるためすっと納得させられるものであり、この変化過程からも「ガー・イ・ウス」の3音節説が強く支持される。ところで代名詞 is, hic, quis の属格形は伝統的に ēius, hūius, cūius と表記されるが、これらは -i- が母音に挟まれているため渡り音として働き、それぞれ ei-jus, hui-jus, cui-jus 「エイユス、フイユス、クイユス」というように発音されるものである。それゆえ eius, huius, cuius と表記が改められて良いと思うが、この慣習的表記はおそらく韻律分析の際に「長・短 (–U)」を ei-jus ではなく ē-ius と誤って読んだことに起因するのではないかと思っている。
このように、eius と Gāius とはその語源からして全く異なるため比較の対象にはならないと言える。つまり、Gāius の長音 ā は ēius のように慣習的なものではなく、本来的なものであると言える。
ところが、en.Wikipedia に面白いことが書かれていた。それによると、Gāius はこのように元々は3音節であったが、共和政期には2音節で「ガユス」と読まれていたというのである。その主張の根拠が示されていないので扱いに困るが、無きにしもあらずといった感じを受ける。
“This pronunciation persisted, alongside the later two-syllable form in which "a" and "i" are pronounced together as [ˈɡajʊs], throughout the period of the Roman Republic.”
オイディプースの父ラーイオス Λάϊος (Lāïos) はラテン語では Lāius (ラーイウス) と書かれるが、Bantam 羅英辞典で Gā-ïus と表記されるのは、これに則ったものであろう。すると、このラーイオスも「ラユス」と読まれた可能性が出てくる。
このような次第であるためはっきりとした結論を出すことができないが、理論的に「ガーイウス」と表記するのが無難であるといえる。「ガイウス」というのは「ガーイウス」の長音を省略する場合に用いられ、「ガーユス」は「ガユス」と共に口語的な雰囲気を伝えるものであると言えるだろうか。そして最後に「ガイユス」であるが、これは eius を規範とした読み方であり、これは避けた方がよさそうである。
手元にある訳書を適当に紐解いて確認してみると「ガーイウス」の表記が最多である。これを踏襲するのがベターであるとも言える。しかし、問題は古典期にどう読まれていたかである。これは今回調べがつかなかったので、また機会があれば調べて見たい。
〈参考文献〉
Chase, G.D., (1897), The Origin of Roman Praenomina,
Leumann, M., (1977), "Lateinische Laut- und Formenlehre", Band 1 aus Lateinische Grammatik von Leumann - Hofmann - Szantyr . München: Beck.
Traupman, J.C., (2007), The Bantam New College Latin and English Dictionary, rev. ed., New York.